手を伸ばした時に近づいてきて欲しかったのは君じゃなかったんだけれどまあいいか。
今日、学校に来る途中でテロに遭って、何人か死んで僕も負傷した。
2つ隣のクラスにいたバンドのメンバー達は無事らしい。
友達が死んだのは悲しいけれど僕が生きているのは嬉しい。
例えばキスがしたければまだ何回もすることができる。
こんな状況でも一緒に生きていて楽しい仲間がいて、毎日少しでも楽しむことが出来るから明日を生きていこうと思うことができる。
良いことが何もないなら野垂れ死ねばいい。
手を伸ばした時に近づいてきて欲しかったのは君じゃなかったんだけれどまあいいか。
今日、学校に来る途中でテロに遭って、何人か死んで僕も負傷した。
2つ隣のクラスにいたバンドのメンバー達は無事らしい。
友達が死んだのは悲しいけれど僕が生きているのは嬉しい。
例えばキスがしたければまだ何回もすることができる。
こんな状況でも一緒に生きていて楽しい仲間がいて、毎日少しでも楽しむことが出来るから明日を生きていこうと思うことができる。
良いことが何もないなら野垂れ死ねばいい。
曲が書けなくなった僕に、もう若くないねと言った人がいた。
そんなことは言われなくてもわかっている。いつのまにか太って疲れやすくなった身体、磨けば血が出るかみ合わせの悪い歯、遠くの見えない眼、いつも痛くて何も新しいことを思いつかない頭。
僕のイメージしていた20代後半はこんなものではなかったはずなんだけど。
結婚して家族を持つ前に老人になってしまった気分。
疲れ過ぎて眠れないので、毎晩夕食代わりに缶ビールを 2 缶空けて、無理やり床に就く。
真夏の海の家の縁台でうたた寝してしまって、そんな情けない10年後になっている夢を見たことを話すと、君に笑われた。「少なくとも太るところからしてありえない」って。その後手をつないで海に走っていって、迎えのフェリーが来るまで島の海でじゃれあっていた。
そんな夏がこれからもずっと続いていくと信じて疑わなければずっと幸せでいられるんだと思った。まぶしすぎる太陽を見ると、なぜか涙が止まらなくて困ってしまった。当たり前のことがなぜかとても遠く感じた、暑い暑い夏の夕暮れ。
血まみれだ。
目の前で痙攣している彼らは不思議な形をしている。
夜の公園に行くと、今日も植え込みの影で変な動きをしているカップルを見つけた。近づいても全然気が付かないので、持っていた金属バットで、二人を繰り返し繰り返し殴りつけた。いつまでもバットが折れなければ彼らが平らになるまで殴っただろうと思うけれど、そんな都合のいい話があるわけはなく、バットはすぐに折れてしまった。
半裸で身体のあちこちが陥没した男の手は痙攣しながら、何故か僕に受け取れと言わんばかりに名刺を差し出している。そういう記号は今さらどうでもいいのに。僕は靴底で手首ごとそれを踏み潰した。
女の方は頭が西瓜かザクロのように砕けてしまったのでもう硬直が始まっている。顎から上が無いので噴水のように血が吹き上がっていたが、次第に勢いは弱まった。
今夜はとても静かだ。僕はこれから新しいバットを買いに行く。
偶然だね。
もう一度会えるなんて思ってなかったよ。
そんな服着るようになったんだね。
まあ、こっちも髪型変えてるから感じは変わったかな。
ちょっと肥ったくらいだからそれなりに幸せなのかも知れない。
もうすぐ引っ越すんだ。だから今度は偶然ってことも無くなるのかな。
もう大丈夫だよ。ありがとう。
二度と会わなくても、大丈夫。
さようなら。
久しぶりに会った人たちは、みんな元気そうだった。
少し大人っぽくなった事をほめてみたら、照れ笑いなんかしちゃって。
そうやって楽しければ楽しいほど、内側から体温が下がってくる気がした。
周りの歓声がだんだん轟音の壁として聞こえてくるようになって、背筋に寒気が走って、僕は身動きが取れなくなった。身じろぎでもすると涙がこぼれてしまうような気がして、指先まで固くなっていた。この世界から外れてしまったのはいつからだろうと思いながら、暗闇に落ちていった。
気が付いたらみんな、その場で雑魚寝していた。何年か前も、誰かの家でこうして朝を迎えたような気がする。けれども、僕は一人ずっと起きたままだった。ここで眼を閉じると、今度こそ誰にも会えなくなる気がして。
突風にあおられて、僕は手に持ったバスタオルで空を飛ぶ。吹き上げられたその一瞬は気持ちよいけれど、頂点に達してからはひたすら落ちる落ちる落ちる。地面に叩きつけられる寸前で木に引っかかったから助かった。救助に来てくれた人々はなぜか僕のことを不用意だと叱り、殺そうとする。別に自分から飛び上がったわけではないのに。
理不尽な人々から逃げ出すために、僕は時代錯誤の機関車を運転して線路を西に向かう。
線路に横たわる人々を何百本もの爆竹を鳴らして追い払い、それでも動かない人々は車輪に巻き込んで進んでいく。
京都を過ぎ、大阪を過ぎ、西宮を過ぎ、神戸を過ぎ、姫路に向かう頃には車輪は重く、歩くほどの速さでしか進めなくなった。
夜の11時を回っているというのに空には黄緑色をした太陽がギラギラと明るく、左手を緩やかに通り過ぎる球場の脇を変な竹馬にまたがった人々がぴょんぴょんと数十 m も飛び跳ねながら大騒ぎしている。きっと今日は花火が打ちあがる日なのだろう。
今日は風が強い。みんな燃えてしまえ。
そうするつもりはなかったんだけれど、つい電話をかけてしまった。
間違ってかけてしまわないようにと、携帯のメモリーからもリダイヤルからも消してしまっていたのに。特に必要な話題があったわけでもなかったのに。指が番号を覚えていたように、自然にその番号を押してしまう。
そのくせ、自分から電話したくせに、出てくれるのかもわからないし出てくれても何を言われるかわからないのが怖くて、数回呼び出したあとにすぐ電話を切ってしまう。本当に最低だ。
そして何度目かの電話で、待っていたかのように電話に出られてしまう。その瞬間に電話を投げ捨てて、汗びっしょりで目が醒める。
僕は彼と気球を作っていた。
今日は20階建てのビルの屋上のヘリポートから、彼が搭乗しての飛行試験だ。
飛び立つ瞬間までは野原で練習してきた今までと同じだった。
今日違ったのは、屋上の端から離れた瞬間、強烈なビル風に巻き込まれて気球が壊れ、彼もろとも落ちていったことだけだった。
パシーンというような、嫌な音がした。
僕は周囲で見ていた人に設計ミスを叱責されてもみくちゃにされた。救急車の音が聞こえたが、付き添っていくことも出来なかった。その後も事故の責任について警察官の取り調べを受けるなどして、長い間拘置所から出ることも出来なかった。彼が生きているのか死んでいるのかも知らないままだった。
長い長い季節の後、僕は偶然そのビルの下を歩いていた。
そこはただの明け方の殺風景な街角で、血痕もなければ何かがあった痕跡もなかった。
一台の車が目の前に停まった。運転しているのは彼の母親で、そして後部座席には彼が乗っていた。髪がまばらに生え始めた頭には縫った跡がツギハギのようにつながり、顔と頭の左半分は、内出血したのか真っ青だった。
窓を開けて彼は言った。「気球が落ちることなんてよくあることだし、あんな場所から飛び立つのにリスクがあることは判ってた。それは別にいいんだ。けど、あの時お前が降りて来なくて、俺を見捨てたのは絶対に許せない」
走り去る車を見送りながら、僕は何を言われても仕方がないと思っていた。理由がどうあれ、当然僕は死ぬまでずっとこの罪を背負って行くのだ。
彼が動かなくなるまでそう時間はかからなかった。
子供の頃は、いくら力いっぱい殴っても泣きもせずに向かってくる相手のことを何て強いんだろうと思っていたものだ。今の僕は約9割の力で殴ったわけだが、彼はコンクリートの地面に頭をぶつけて脳が飛び散っているし、僕の拳の関節部分は肉がえぐれて骨が飛び出している。
血とホルマリン臭が辺りに膜を張っているようで厭な気分だ。
それでも繰り返し彼の顔、首、腹を力任せに蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。
僕の靴は腸が絡んだ場合に備えられてはいなかったので、足がすべり血溜まりに倒れた。そうやって彼の横で煤けた低い天井を見上げると、僕自身と彼の違いは、ただその肉の固まりが動くか動かないかだけに思えた。
「今年は忙しかったけど、来年の夏には絶対一緒に海に行こうよ」 と言った。
でも、次の夏まで本当に一緒にいられるのかどうかは誰にもわからない。
いくら仲が良くても、僕は寝ぼけて線路に落ちて電車に轢かれてしまうかもしれない。
どうでもいいことを考えながら家に帰った。
暗い部屋で、近くの街灯から漏れる薄明かりで、僕は君を見つけた。
部屋にはまだ、君の温度が残っていた気がした。
僕は不思議と落ち着いていた。
残念だけれど、少し君が羨ましかった。
まだ春ですらないけれど、明日は休みを取って君と港に行こうと思う。
明日からは僕らが望めばそこが夏の海になる。