夢の風景 (9)

曲が書けなくなった僕に、もう若くないねと言った人がいた。
そんなことは言われなくてもわかっている。いつのまにか太って疲れやすくなった身体、磨けば血が出るかみ合わせの悪い歯、遠くの見えない眼、いつも痛くて何も新しいことを思いつかない頭。
僕のイメージしていた20代後半はこんなものではなかったはずなんだけど。
結婚して家族を持つ前に老人になってしまった気分。
疲れ過ぎて眠れないので、毎晩夕食代わりに缶ビールを 2 缶空けて、無理やり床に就く。
真夏の海の家の縁台でうたた寝してしまって、そんな情けない10年後になっている夢を見たことを話すと、君に笑われた。「少なくとも太るところからしてありえない」って。その後手をつないで海に走っていって、迎えのフェリーが来るまで島の海でじゃれあっていた。
そんな夏がこれからもずっと続いていくと信じて疑わなければずっと幸せでいられるんだと思った。まぶしすぎる太陽を見ると、なぜか涙が止まらなくて困ってしまった。当たり前のことがなぜかとても遠く感じた、暑い暑い夏の夕暮れ。