夢の風景 (2)

彼が動かなくなるまでそう時間はかからなかった。
子供の頃は、いくら力いっぱい殴っても泣きもせずに向かってくる相手のことを何て強いんだろうと思っていたものだ。今の僕は約9割の力で殴ったわけだが、彼はコンクリートの地面に頭をぶつけて脳が飛び散っているし、僕の拳の関節部分は肉がえぐれて骨が飛び出している。
血とホルマリン臭が辺りに膜を張っているようで厭な気分だ。
それでも繰り返し彼の顔、首、腹を力任せに蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。
僕の靴は腸が絡んだ場合に備えられてはいなかったので、足がすべり血溜まりに倒れた。そうやって彼の横で煤けた低い天井を見上げると、僕自身と彼の違いは、ただその肉の固まりが動くか動かないかだけに思えた。